資生堂ギャラリーでは、CGで合成された写真作品で国内外から高い評価を得ているやなぎみわの展覧会を開催いたします。本展では、2000年から手がけている「My Grandmothers」シリーズの新作映像インスタレーション「Granddaughters」をご紹介します。
1993年に発表した初期のエレベーター・ガールの作品は、生身のエレベーター・ガールに扮した女性を使ったパフォーマンス的要素の強いものでしたが、だんだんコンピュータ・グラフィックスを駆使し、実際にある風景をもとにした非現実的なイメージを作り出すようになりました。それらの作品には、制服を着た無表情なエレベーター・ガールがデパートやアーケードに退屈そうに集う姿が写し出されています。彼女たちがいる空間は無限に続いており、独特の遠近法を用いてイメージがつくられています。そこでは、魅力的で官能的な商業施設がときおり感じさせる空虚さや倦怠感が表現されており、そんな消費空間において個性が排除され風景の一部となってしまった女性の抑圧や孤立感を感じとることができます。
2000年からは、これまでの人物の個性を感じさせない無機質な作風をガラリと変えて、バラエティに富んだ女性の老後を扱ったシリーズ「My Grandmothers」を発表し始めました。エレベーター・ガールのシリーズでは、風景や人物を完璧にアーティスト自身がコントロールして作品をつくってきたのですが、「Grandmothers」のシリーズは、モデルになる若い人に50年後、60年後を想像してもらい、自分の未来像についてやなぎがインタビューするというかたちで始まります。そして、モデルとやなぎが納得できる未来像がでてきたときに、"理想のおばあさん"としての「My Grandmothers」の作品が完成します。若い男がハンドルを握るハーレーのサイドカーに乗ってゴールデンゲート・ブリッジを渡る老女、着ぐるみを着てふんぞりかえるテーマパークの社長の老女、お笑い芸人のパトロンの老女、墓石のキャットウォークでポーズをとるスーパーモデルの老女、「看取り屋」の老女、等。老いるということに対して、我々、特に女性はネガティブな考えを抱いてしまいがちですが、やなぎとモデルとなる人たちによって生み出される老女たちは、老いることに対して肯定的です。近づく死よりも、自分が開放された時間が永遠と続くことを希望し、老後にある種のファンタジーを抱いていることが感じられます。
"おばあさん" をテーマにしていることについて、やなぎは次のように述べています。「人間が一番あらがいがたいのは、自分の親を選べないこと。そういう自分で決められないことに関して、たとえば自分を育てる人間というのを自分で創造する、自分の肉親をつくるような感覚を持っています。作品は、自分とモデルになった人2人を導くようなもの、架空の自分の祖母、血縁だと思いたい人たちです」。作品に登場する"おばあさん"たちに愛情と親しみを注いでいることがよくわかります。このようなアイデアの流れから、今回発表する「Granddaughters」もつくられています。
「Granddaughters」は、多くの"おばあさん"たちが、自身の祖母について語ることによって、記憶のなかに生き続けた祖母像の再来とその共有を試みます。