shiseido art egg賞-クリエーションに関わる様々な分野で活躍する3人が審査し、3つの個展の中で資生堂ギャラリーの空間に果敢に挑み、新しい価値の創造をもっとも予感させると評価した展覧会にshiseido art egg賞を贈ります。
第6回 shiseido art egg賞
第6回shiseido art egg賞は入江早耶さんに決定しました。
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入江早耶展 <デイリー ハピネス>
撮影:加藤健
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入江早耶展 <デイリー ハピネス>
撮影:加藤健
4月16日に行われた贈賞式において、当社社長の末川より入江さんに記念品並びに賞金20万円を贈りました。
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受賞の言葉
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自分の作品に自信を持つことができました。
資生堂アートエッグに携わって下さった方々のサポート、2組の作家に出会えたこと、展覧会に来て下さった皆様、とても感謝しています。今回の展覧会の反省点を活かしつつ、次のステップへ大きく前進できるよう頑張ります。
審査総評
本年の審査員は伊庭靖子、津村耕佑、平野啓一郎の3氏です。審査員は第6回shiseido art egg展の開催期間中にそれぞれの展示を鑑賞し、ポートフォリオを確認し、作家本人に質問をするという過程を経て審査にのぞみました。審査会では、若い作家たちの今後のキャリアのためにと、真剣な議論が交わされました。
3組のアーティストは共通して既製品を素材に用いており、そこに現代の若者ならではの感覚の一端が表れていました。しかし、来場者とのインタラクティブな要素を組み入れたthree、二次元と三次元の関係性というアートにとって普遍的な問題に取り組んだ鎌田友介、ユニークなコンセプトと繊細な手仕事を見せた入江早耶と、3組の表現の方向性はそれぞれ異なり、素材の扱い方、コンセプトの練り上げ方、実際の展示における表現の仕方、東日本大震災以降のアートのあり方が議論の中心となりました。
その結果、3組のアーティストそれぞれに時代性を映し出し、表現上も果敢に挑戦を行っているが、「コンセプト、手わざ、モノとしての面白さのバランスがよく、手仕事としても説明を必要としない魅力があること、気負わないパーソナルな雰囲気が震災後の時代によりフィットしていること」が評価され、第6回shiseido art egg賞は入江早耶に決定しました。
貴重なお時間をshiseido art egg賞審査に費やし、熱心かつ真摯に議論してくださった伊庭靖子氏、津村耕佑氏、平野啓一郎氏に心から御礼申し上げます。
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審査員所感
three展
2012年1月6日(金)~19日(日)
弁当などについてくる醤油さしやキャンディー等、既存のモノを無数に集積・反復させることで現代社会を表現しようとするユニークな試み。
コンセプトやアイデアは非常に面白く、素材の選び方や、来場者が作品の一部(キャンディー)を食べることにより、会期中に作品の形態を変化させるという手法はキャッチーで鑑賞者に強くアピールした。

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造形の要素に、人との関わりで形がかわっていくというリスクとも思えることを取り込んだ今回のスタイルは、彼らの持つ様々な状況に応じられる力を感じさせ、システムを変換するという、震災後アートに求められるようになった役割にもリンクしており評価できる。一方、変化して行く過程をもう少しドラスティックに見せる工夫が欲しかった。
醤油さしで作った壁面に映像を投影した「Tokyo Crowd」は、映像初挑戦の作品であったが、映像と壁面の造形との関係性が曖昧で、今後に課題を残す結果となった。
いずれも、アイデアは非常に面白く時代にも即した表現ではあるが、細部の造形の粗さや、調整不足な点が、作品の強度を落としているという印象を受けた。今後は、アイデアを作品に仕上げて行く際に、仕上げのクオリティーも含め、更なる工夫を期待したい。
作品内容は非常に整理されていて、3人組のユニットならではの柔軟性やバランスの良さがあり、バジェットなど条件がそろえば、どのような場面にも対応していく可能性を感じる。しかし、その一方でバランスがよすぎて、新鮮な驚きにつながりにくいきらいもある。例えば今後は、プロジェクト毎にメンバー一人一人の偏った感覚を押し出すなど、少し崩れた面が加わるとさらに作品に魅力が増すのではないだろうか。今後ユニットとしてどのような展開をしていくのか、更に期待したい。
鎌田友介展
2012年2月3日(金)~26日(日)
三次元の現実世界を解体し、二次元につくりかえ、再び三次元の空間に構成することで三次元の空間に二次元的知覚のズレを引き起こそうとする試み。
美術の普遍的なテーマに正面から取り組んだ、骨太な作品であったことは評価に値する。
しかし、大展示室で展開した作品は、大きな空間に対して量(アルミサッシ約130枚)を見せてしまったがゆえに、多方向に向かうサッシの線と資生堂ギャラリーの駆体の線が互いに相殺した形になり、作家が狙った効果を弱める結果になった。
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また、アルミサッシという素材も今回のコンセプトにはあまり効果的ではなかったし、小展示室で展開した作品もそれぞれの素材の存在感が作品の効果を弱めてしまった。彼が取り組んでいることは、素材の存在感(光り方、影、テクスチャー等)や、展示する空間の細部にわたるまで綿密に計算しつくさなければ完成しないとてもハードルの高いことなので、素材選びも今後のひとつの課題となるであろう。
今回のプランは東日本大震災以前にたてられたもので震災から着想を得たものではないということだが、展覧会タイトルの中に「破壊」という言葉があり、作品にも破壊的な行為を想像させる部分があり、見る側に今回の震災を意識させてしまったことは否めない。東日本大震災というあまりにも巨大な破壊を見てしまった後で「破壊」というテーマにアートがどのような姿勢でアプローチしていくのか、彼に限らず、アート界の大きな課題でもある。
今回は過渡的な作品となり、新たな次元を切り開くまではもう一歩届かなかったものの、非常に意義のある経験であったはずだ。今後のアーティストとしての活動に必ず繋がっていくであろう。次の展開に期待したい。
入江早耶展
2012年3月2日(金)~25日(日)
身の回りの日常品の素材のルーツや背後にある物語に着目し、新たな価値をみいだすことを試みた、ユニークな展示。
掛軸や菓子箱などの表面の図像を消しゴムで消し、その消し屑を素材に元の図像を立体化(彫刻化)するなど、小さくて精巧なオブジェを制作している。表面のインクも物質と捉え、それを消すことで表面から抜き取り、抜き取ったもので立体的に再現するという手順を踏んでいるが、平面から立体に変換する考え方が非常に秀逸である。同時に立体化に際しての手技も素晴らしく、コンセプトだけでなくモノとしての魅力もバランスよく表現に取り込んでいた点を高く評価する。
素材のルーツに着目したブリリアントカットの鉛筆(鉛筆の芯とダイヤモンドは同素体)等のシリーズも、モノをみたり考えたりすることの楽しみを鑑賞者にもたらす仕事として評価できる。
一方で、コンセプトにより強度を持たせるために、二次元を消しとった消し屑の量と三次元の立体をつくるときの消し屑の量との関係性等を、今後、考えていく必要があるだろう。また、オブジェを置く箱の配置がややデザイン的である点、資生堂ギャラリーならではの空間づくりができたかという点も課題として残った。
魅力的なアート作品には往々にして“too much”な、人が思っている輪郭をはみ出していくようなところがあるが、入江作品にも良い意味でばかげたところがあり、説明なしで誰にでも通じる面白さがある。今後、どのような作品をつくっていくのかと想像力をかきたてられ、将来を期待させられるアーティストである。
審査員
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伊庭 靖子(画家)
京都生まれ。嵯峨美術短期大学専攻科修了。自然光のもとでみずから撮影した、クッションや器などの写真イメージを素材として、モチーフのリアルな触感、空気感を油彩で描いた作品で知られている。1999年アジャン美術館(フランス)、2009年神奈川県立近代美術館などの個展の他、グループ展にも多数参加。資生堂ギャラリー第六次椿会メンバーとして2007年から2010年まで活動。現在、成安造形大学美術領域准教授。
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津村 耕佑(ファッションデザイナー)
埼玉生まれ。三宅一生氏の下クリエーションスタッフとして主にパリコレクションに関わる。1994年究極の家は服であるという考えを具現化した都市型サバイバルウエアーブランドFINAL HOMEを立ち上げる。2000年ヴェネチア・ビエンナーレ建築展、2002年上海ビエンナーレ展、2005年ニューヨーク近代美術館に出展するなどアート、建築の分野にも活動の幅を広げている。現在、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。
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平野 啓一郎(作家)
愛知生まれ。京都大学法学部卒。1998年「新潮」に投稿した作品『日蝕』によりデビューし、1999年同作で芥川賞を史上最年少で受賞。主な著作に『一月物語』(新潮社)、『決壊』(新潮社)、『ドーン』(講談社)、『かたちだけの愛』(中央公論新社)などがある。小説執筆活動の傍ら新聞等での美術展評や、三島由紀夫文学賞選考委員、東川写真賞審査員を務めるなど、幅広い分野で活動している。『モーニング』誌上に長篇小説『空白を満たしなさい』連載中。
これまでのshiseido art egg賞の結果は下記よりご覧ください。