第18回shiseido art eggの入選者は、応募総数291件のなかから以下の3名に決定しました。
入選者3名は2025年3月~6月(仮)に資生堂ギャラリーにて個展を開催します。
第18回shiseido art eggの入選者は、応募総数291件のなかから以下の3名に決定しました。
入選者3名は2025年3月~6月(仮)に資生堂ギャラリーにて個展を開催します。
応募総数: | 291件 |
審査員: |
伊藤 俊治 (美術史家/東京藝術大学名誉教授/資生堂ギャラリーアドバイザー) 光田 由里 (美術評論家/資生堂ギャラリーアドバイザー) 資生堂ギャラリーキュレーター |
*コメントはポートフォリオ審査の時の情報に基づいています。
第18回sheseido art eggには、291の応募があり、プロポーザル内容も以前とは方向や質が変わってきた印象を受けた。コロナ前、コロナ中、コロナ後と審査を続けてきたが、その間も、地震や台風など災害が繰り返され、戦争やテロも止まず、仕事や生活の環境も大きく変わった。
アートの世界では美術館やギャラリーは正常に復帰し、新たな形式でのアートフェスティバルも始動し、コロナなどすっかり忘れてしまったように見える。とは言え、個々のプロポーザルを見てゆくと、四年近く続いたコロナ下の残滓はあちこちに散見される。あからさまな傷痕の表出というのではなく、精神の深部に刻まれた影響が滲み出てくるように作品全体を覆っている。歴史の無意識への眼差しや神話・伝承・民俗への関心といった傾向も、そうした変化と無縁ではないだろう。
shiseido art eggはプロポーザル審査である。実際に出来上がった作品を見て評価する訳ではない。展覧会が実施される資生堂ギャラリーは自律性の高い層状構造の特殊空間であり、そうした場を駆使し、最終的にどのような作品が具体化されてゆくのかは流動的である。
よく作品のエッジが効いていないとか、フィニッシュが決まっていないと言われる。こうしたことの最大理由は、最後の段階になっても作品の世界観が曖昧なままだということが挙げられる。自分がどのように世界と対峙しているのかが、ぼやけている。作品の切れを鈍くし、完成度を下げているのは、大袈裟な言い方かもしれないが、自分の死生観が込められていないためである。
エッジとは「崖(っぷち)」のことである。人類学者のジョアン・ハリファックスは「エッジからの眺め」(『コンパッション』収録 海野桂訳 英治出版)で、エッジとは転落する危険をはらみながらも大きな人間的成長をもたらす見晴らしのいい高みであると定義する。その高みに辿り着くことでエッジが効いてくる。選ばれたアーチストにはそのエッジの重要性を心に留めてほしい。
Art egg は18回目を迎え、幅広い世代の作家たちが自らの道を進むうえで一度は挑戦してみたいゲートとして、定着している。歴代の入選者たちを振り返れば、自らのスタイルを確立し先へと展開するステージとしてこの公募が活かされていった軌跡が、日本の現代美術の動向の一側面を照らしていることがわかる。これから十分なスペースで注目を集める個展を開催できる重要な機会として、本展が伝統を作り続け、今後も独自の役割を果たしていただきたいと考える。
今回は、選出された3作品がそうであるように、映像(パフォーマンスを含む)、立体、絵画など、複数のメディアを組み合わせるインスタレーションが、しばしば採用される提示方法になっていた。初期のart eggでは新たな素材、独自の見せ方で提示される立体、絵画作品がしばしば選出されていた印象だが、映像への傾斜が見られるうちに、今回は映像を何と組み合わせるかという方向を見せてくれたようだ。
作家個人の私的な領域を切り開いたテーマは今回では後退しつつあり、オルタナティヴな世界を想定するプランが目立った。AIをはじめとするIT技術の進展がもたらす近未来の生を描き出すもの、データから読み解く近未来の課題を手掛かりにするプランが目につく一方で、逆にバナキュラーな題材、血縁や胎内的世界への注目、日常の表面からは隠されてしまった近過去を読み返す姿勢においてもヴァライエティに富んでいた。オルタナティブな世界の提示において、時間軸を前に進めるか敢えて逆行させてみせるかは、現在の問題をどう扱うかということに直結している。
今回選出された3点もそうした見方でとらえることが可能だろう。
絵画
1993年 愛知県生まれ
2019年 愛知県立芸術大学美術研究科博士前期課程油画・版画領域修了
秋田県在住
主な活動
2024年 「藪から藪へ」YEBISU ART LABO、愛知
2023年 「TOKAS-Emerging 2023『風景を踏みならす』」トーキョーアーツアンドスペース、東京
website :https://daitoshinobu.wixsite.com/shinobu-daito
いつか、と思っていた場所でこうした展示の機会をいただけて大変光栄です。
わたしは風景に残っている営みの痕跡を読むことで「人の在処」を確かめ、「風景を供養する」ための実践をしてきました。
銀座の上品で歴史に名を残すような建物が立ち並ぶ風景からは少し遠く感じるような、でも確かにどこかにあって繋がっているはずの、夜の深い影を纏った風景たちを携えてきます。たくさんの方に見ていただけたら嬉しいです。
伊藤 俊治
風景にはさまざまな人間の営みが内包されている。死者(過去)と生者(現在)と未生者(未来)の行き交う風景を読み解きながら、自らの身体を澄まし、隠された沈黙の声の身振りを発現させる。映像・絵画・写真を複合化し、私たちの生きる場所の意味を浮かびあがらせようとする実践と言える。
光田 由里
身近な風景は、これまでに起きてきた事象、そこに居た人たちの生の痕跡の結果であり、その表皮でもある。これらを読み取る方法として、叙事的な木炭画による風景描写、周囲に光を投下するパフォーマンスを組み合わせて考察の入り口を作るプランである。実際に調査してその場に踏み込むリサーチ型とは別の、象徴的なアプローチの喚起力を見てみたい。
インスタレーション
神奈川県生まれ
武蔵野美術大学 造形学部 油絵学科 卒業
2007年 岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー[IAMAS] 卒業
2024年 東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 先端表現情報学コース 在籍
東京都在住
主な活動
2024年 「mœrs festival 2024」メールス、ドイツ
2024年 「OPENSITE 8 『移動について』」トーキョーアーツアンドスペース、東京
2023年 「The Process」Harvestworks、ニューヨーク
website :https://suzueri.org
これまで、自作装置を使った演奏活動を主に行ってきました。作った装置と発する音が持つナラティブについて、その先のことを考えたく応募し、今回選んでいただいたことを感謝しています。少し悩んだのですが、生まれ年と最初に卒業した大学の卒業年について、ここでは公開しないことにしました。年齢やジェンダー、キャリアを問わず評価していただける場を、今の日本で持てたこと、その懐の広さをとてもうれしく思います。今から緊張していますが、よい展示空間を作れるよう頑張ります。
伊藤 俊治
インターネットを支える無線技術は、へディ・ラマーにより自動ピアノを応用し発明されたという逸話を元にした通信インスタレーションである。ウィーン生まれのハリウッド女優ラマーへ、A・ウォーホルは「へディ・ラマー」という映画でオマージュを捧げた。万引と整形を繰り返すスキャンダラスな生涯は自伝『エクスタシーと私』に詳しいが、その稀代の女優の物語と詩の空間化を試みる。
光田 由里
通信技術とハリウッド女優の結びつきという近過去の盲点から、見えない通信網の備える暴力、それに関わらざるをえない人の生との関係性が描き出されるプランである。抽象的な音と光線が、どのようにモノを扱うインスタレーションと関わり、実在の人物の多面的なストーリーを現出させてくれるだろうか、今回の実験が開く世界があるはずだ。
映像
1991年 長野県生まれ
2014年 武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業
主な活動
2024年 「Moonlit night horn」Satoko Oe Contemporary、東京
2021年 「さかしま」Satoko Oe Contemporary、東京
資生堂ギャラリーで開催される展覧会の歴史の一部となれることを、大変光栄に思います。
今、人々が世界を見つめる視線は、新たなテクノロジーの登場によって、急激にではなく、徐々に、無意識のうちに変化していっていると感じています。 テクノロジーが変われば、身体の使い方も変わります。身体の使い方が変われば、それに伴い精神も自然と変わっていきます。私自身、それを身をもって感じている一人です。 私たちの精神は今、どのような形をしているのでしょうか。そんなことを考えながら、自分の表現に向き合っていきたいと思います。
伊藤 俊治
仮想空間上のアバターは日常化され、使い古されてしまった。現在ではアバターとは、自己の分身として存在する、トラッシュ・キャラクターやファンド・オブジェを指す。しかし、もともとは「神の化身」を意味するサンスクリット語の「アヴァターラ」を語源とする聖なる宗教言語である。現実の物理空間を超え、無機物や異次元にも棲息するようになったアバター形式の多様性を踏まえながら、心と身体の関係の再考を促す。
光田 由里
モニター内部にいるはずのアバターたちをレンチキューラーの多重輪郭で絶え間なくチェンジさせるアイデアを、今回は発展させるプランだという。彼らがこちら側に来るなら、キメラ的要素が累乗され、とらえがたく不安定な立体化が出現するのだろうか。わたしたちの身体イメージがいかに揺り動かされているかを、それらが示すことを期待したい。
以下の3名の審査員が上記3つの展覧会のなかから第18回shiseido art egg賞を選出します。
村山 悟郎 氏(美術家)
永山 祐子 氏(建築家)
星野 太 氏(美学者)
※第18回shiseido art egg賞受賞者は、3つの個展終了後、当ウェブサイトにて発表します。
これまでのshiseido art eggの審査結果は下記よりご覧ください。