shiseido art egg賞-クリエーションに関わる様々な分野で活躍する3人が審査し、3つの個展の中で資生堂ギャラリーの空間に果敢に挑み、新しい価値の創造をもっとも予感させると評価した展覧会にshiseido art egg賞を贈ります。
第4回 shiseido art egg賞
第4回shiseido art egg賞は村山悟郎さんに決定いたしました。
4月14日に行われた贈賞式において、当社社長の前田より村山さんに記念品並びに賞金20万円を贈りました。
受賞の言葉
芸術の新たな価値の創造、そしてアートに関わる若い人間がその企てとして自ら展覧会を作ろうという美術的民度の向上という意味において、このshiseido art eggというプログラムが果たす役割は大きいと思います。
それは、新たな価値や試みというものが社会の持つ特権性によって常に原理的困難に曝されている中にあって、古い歴史を持つこの資生堂ギャラリーがその門戸を開放するということ、そして展覧会企画自体を公募するという形式を持つこと、その二点からです。
願わくは、社会全体もそのような成熟した状況を志向してほしい、その為に私も活動したいと思います。
審査総評
青木淳氏、児玉靖枝氏、三嶋りつ惠氏の3人の審査員は、3ヵ月にわたるshiseido art egg展開催期間中に3つの展覧会を鑑賞するだけでなく、それぞれのポートフォリオを精査し、本人にじっくり話を聞くという過程を経て、審査にのぞみました。審査会では、専門分野からの視点を織り交ぜながら、各展覧会について忌憚のない意見を述べてくださいました。
3人のアーティストそれぞれに新しさや面白さがあり、将来が期待されるが、表現の新たな可能性を感じさせる展示であること、そこから受けた新鮮な感覚や刺激を鑑みた結果、第4回shiseido art egg賞は村山悟郎に決定しました。
審査員の方々からは、今回の展示が3人にとって新たなチャレンジであり、大きな意味のある展示だった、今後ここからどのようなアートを展開していくのかがとても楽しみだ、というあたたかいメッセージもいただきました。
貴重なお時間をshiseido art egg賞審査に費やしていただき、熱い議論を展開してくださった、青木淳氏、児玉靖枝氏、三嶋りつ惠氏に心から御礼申し上げます。
審査員所感
曽谷朝絵展《鳴る色》
2010年1月8日(金)~1月31日(日)
ある種のエネルギーを感じさせる展示。色彩、光、フォルムの持つ力を、ギャラリーの空間に引っ張り出し、広げていった強度は圧倒的であり、また、その結果出現した世界は実に美しいものだった。その試みは、二次元に閉じ込められているなかにもそこからあらゆるイメージを喚起させてきた彼女のこれまでの絵画作品の世界を、三次元の実空間に「環境」として、別のかたちで展開しようとする挑戦であり、その果敢さは十分に賞賛に値する。
その反面、粘着シートやビニールシートという表現が物質的に見えすぎているように感じられたこと、また、部分部分では大きな濃淡や深い奥行きが感じられるのだが、それら要素が空間の隅々まで満遍なく配置されることによって、かえって、そうした感覚が中和され、均質化してしまった感があり、展示としては、要素を整理するなど、まだ詰める余地が残っていたように思われた。
とはいえ、この経験から得たものによって、これからの彼女の絵画の創作に大きな影響を与えることは間違いなく、今後の彼女の作品における大きな転換の可能性に期待したい。
岡本純一展 《市中の山虚》
2010年2月5日(金)~2月28日(日)
資生堂ギャラリーが2つの大小の矩形空間の対角方向につながった独特な空間構成を持っていること、また、その順路がまず小さな矩形空間を上から見下ろしてから大きな矩形空間に迂回して降りるというものであることなど、このギャラリーの独特の空間特性に敏感に反応して、それらに最大限に呼応することに成功した完成度の高い展示だった。しかも、それが同時に、日常と非日常の反転という彼の一貫したコンセプトと、無理なく自然に縫合された展示になっている点にも作家の大きな力量が感じられた。全体のスケール感の正確さ、鋭角を成す壁の構成、陰影のバランス・効果も特筆に値する。
しかし、自らの手で制作するのではなく、図面による発注制作のため、作家本人の感覚が希薄に感じられ、人間のさまざまな感性にシンクロしてくるようなところがやや弱い気がした。また、障子の使用は、それが「日常」を表現している要素であることは理解できるが、それ以上に、作家自身は想定しなかったはずの「和風」という記号になってしまっているようにも思われた。日常と非日常の関係という主題については、資生堂ギャラリーという独特な空間コンテクストそのものを日常として扱う姿勢の方がよかったかもしれない。
今後、出身地の淡路島で活動するとのことだが、ホワイトキューブという密室空間ではなく、そうした生活に密着した環境のなかで、自分が感じるものを生身で伝えていける未知道が開けるかもしれない。既存のジャンルにとらわれない活動に期待したい。
村山悟郎展 《絵画的主体の再魔術化》
2010年3月5日(金)~3月28日(日)
絵画の原初に遡り、絵画をそこからもう一度紡いでいこうという強い意思が感じられる意欲的な作品。矩形のキャンバス上にあるイメージという絵画像を捨てるというところから出発して、そこからごく自然に辿り着いたという感じがある。
特定のルールを適用することで支持体であるカンバスを編んでいこうとするデジタルな感覚と、そこで使われる麻紐という素材や編むということのアナログな感覚とが奇妙に共存しているところが魅力であり、そこに現代性が強く感じられる。
プリミティブな感覚を与えるものの、それは感性の赴くままに自由奔放に放出されているという意味でのプリミティブではなく、ひとつひとつのプロセスの正確な完遂(つまりデジタル)への極端なまでの拘りに現れるプリミティブである。その意味で、作家自らの手の痕跡を強く表す麻紐の作品と、ルールだけを指定して他の人に描かせたドローイングとの並列は、彼のアルゴリズミックな指向あるいはパラメトリックな指向をよく表していた。
ルールの適用が偶々とった形という不定形性・流動性のある作品であると思われるにもかかわらず、かなり予定調和的あるいはスタティックな展示になっていたことなど、展示については、構築しきれていないのではないか。
しかしながら独創的な試みであり、新機軸を提出するのに成功している。麻紐という素材以上に、その背後にあるアルゴリズミックな指向を強調した今回の展示には、次なる展開への飛躍力が秘められているように感じられ、今後の活躍に期待したい。
審査員
青木 淳(建築家)
神奈川生まれ。東京大学大学院修士課程 (建築学) を修了後、磯崎新アトリエに勤務。1991年に青木淳建築計画事務所を設立。作品は住宅、公共建築、商業施設など多岐にわたる。代表作として一連のルイ・ヴィトン店舗、「青森県立美術館」(2006年)、「SIA青山ビルディング」(2008年)などがある。2002年に国立近代美術館で開催された「現代美術への視点 連続と侵犯」では「U bis」というインスタレーション作品を出展し、アーティストとしての別の創造性を見せた。1999年に「潟博物館」で日本建築学会作品賞を受賞。2004年度芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。
児玉 靖枝(画家)
兵庫生まれ。1986年京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。日常の中で感受する非日常的光景をモチーフとし、具象のなかの抽象性を際立たせることより、存在の気配を喚起させる絵画を描くことで〈まなざし〉を問う試みを続けている。1999年京都府文化賞奨励賞、2005年兵庫県芸術奨励賞、2010年亀高文子記念赤艸社賞受賞。主な展覧会は1995年「視ることのアレゴリー1995:絵画・彫刻の現在」(セゾン美術館)、2009年「LINK―しなやかな逸脱」兵庫県立美術館など。資生堂ギャラリーの第五次椿会メンバーとして2001年から2005年まで毎年「椿会展」に参加。
三嶋 りつ惠(ガラス作家)
京都生まれ。1989年よりヴェネツィア在住、制作・活動の拠点とする。 1996年より ムラーノ島のガラス工房に通い始め職人とのコラボレーションにより作品を生みだす。2001年ロンドン・サザビーズよりジョルジオ・アルマーニ賞受賞。主な展覧会に2007年「しずかな粒子」ヴァンジ彫刻庭園美術館、2008年「百年後―未完の考古学」シュウゴアーツ、2009年第53回ヴェネツィア・ビエンナーレにてヴェネツィア館に出展、2010年「凍った庭/炎の果実」ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館(オランダ)。
これまでのshiseido art egg賞の結果は下記よりご覧ください。